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松山地方裁判所 昭和59年(ワ)186号 判決 1985年10月25日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する昭和五七年一〇月一三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  交通事故の発生(以下本件事故という)

(1) 日時 昭和五六年一一月一五日午後四時五五分頃

(2) 場所 松山市朝生田町九九七番地の一先路上

(3) 加害者 竹本聡(以下竹本という)

(4) 加害車両 普通乗用車 愛媛五六す六八九九

(5) 被害者 西森勝利(以下西森という)

(6) 被害車両 普通貨物自動車 愛媛四〇ケ五四九三

(7) 事故態様等 竹本は、右日時場所において片側二車線の道路の外側車線を運転中、先行する普通乗用車を追い越すため時速約七〇キロメートルに加速して右にハンドルを切り、内側車線に進路を変更したところ、同車線を先行している普通乗用車を約一〇メートル先にはじめて発見し、同車に追突することを回避するため、右にハンドルを切つたまま急制動した為自車を対向線に滑走させ、折りから対向してきた西森運転の被害車両に激突し、よつて同人に腸間膜破裂等の障害を負わせ、同月二〇日死亡させたものである。

2  被告の責任

竹本は昭和五五年九月二五日被告に採用され、電気工事関係の仕事をしていたもので、本件事故当日も被告が請負つた松山市南斉院町八一番地コーポ王赤の電気配線工事の作業を命ぜられ、事故当日朝八時頃自己所有の加害車両を運転して会社の寮を出て右工事現場(以下本件工事現場という)へ赴き、午後四時頃仕事を終えたので帰路につき本件事故を起こしたものである。

また右加害車両は被告の敷地内で常日頃管理され被告の仕事に使用されていたものであるから被告は加害車両につき運行利益と運行支配を有していたもので、竹本の本件事故は、客観的外形的に被告の事業の執行につきなされたものというべきであるから被告には自賠法第三条の供用者責任乃至民法第七一五条の責任がある。

3  右事故につき、竹本と訴外西森アイ子との間において、昭和五七年九月六日金四五二六万三八二八円で示談が成立し、内金二〇二六万三八二八円は自賠責保険金より、内金五〇〇万円は竹本が支払い、残金二〇〇〇万円は、西森と、原告との間で被害車両につき、死亡時金二〇〇〇万円の無保険車傷害保険契約を締結していた為、右契約に基づき同年一〇月一二日原告が西森の相続人に同額を支払つたが右示談金額については、西森の収入、年齢等から考えて賠償金としては適正金額を上回るものではないから原告は右事故の加害者である被告に対し、同額の金員につき求償権を取得した。

よつて、原告は被告に対し、金二〇〇〇万円とこれに対する支払日である昭和五七年一〇月一二日の翌日である同月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告(以下被告会社ともいう)の認否並びに答弁

1  2項は否認する。その余の請求原因事実は総て知らない。

2  竹本の起こした本件事故は被告の事業の執行につきなされたものではなく、また被告は竹本の運転につき運行支配も運行利益も有していなかつたから、被告は右事故につき自賠法三条並びに民法七一五条のいずれの責任も負わないから、原告の求償権はその前提を欠き発生しない。

即ち、被告会社従業員が現場作業を行なう場合は、現場毎に編制された班に割り当てられている自動車にその現場に必要な工具一式が積み込まれてその自動車で現場に行き、現場作業がなされるのを常としていたが、本件事故当時竹本の担当していた工事現場の工具は加害車両とは別の日産トラツクに積み込まれており、このトラツクから工具を加害車両たるマイカーに積み込んだ事実は無く、同人が本件事故当日本件工事現場に赴いたことはなく、本件事故は同人の純然たる私用中に起こした事故である。

仮に同人が本件工事現場からの帰途に本件事故を起こしたのだとしても、加害車両は同人の私用に供する純然たるマイカーであつて、未だ嘗て右自動車が被告会社のため使用された事実はなく、被告は右自動車が事故当日使用されることは全く予見していなかつたものであるから被告は本件加害車両に運行利益及び運行支配を有していたものではなく同人の運転行為は被告の事業の執行についてなされたものとはいえない。

第三証拠

本件記録書証目録並びに証人等目録記載のとおりであるからこれをここに引用する。

理由

一  成立に争いのない甲第一ないし一〇号証によれば請求原因1項の事実が認められる。

二  成立に争いのない甲第七号証、同第一三号証によれば、竹本は本件事故につき西森の妻訴外西森アイ子(以下アイ子という)と昭和五七年九月六日金四五二六万三八二八円で和解をなしたこと、西森は原告との間で本件事故前に死亡時金二〇〇〇万円のいわゆる無保険者傷害保険契約を締結していたので原告は竹本ら加害者に替わつて右金員をアイ子に支払つたことが認められ、前掲証拠並びに弁論の全趣旨を総合すれば竹本の右和解金は西森の本件事故と相当因果関係の範囲内にあり、原告がアイ子に支払つた右立替金は相当なものであると認められる。

三  そこで以下本件事故当時の状況につき検討するに、成立に争いのない甲第一〇号証、同第一四号証、証人竹本聡の証言により成立の認められる甲第一七号証、証人石塚雅範の証言を総合すれば、竹本は本件事故当日の次週の日曜日に被告の作業に従事する予定であつたが、同人の結婚式の準備等の事由から右事故当日に請求原因2項記載のコーポ王赤で作業予定の、被告の従業員訴外斉藤光男と相談のうえ、作業日程を変更し、本件事故当日右作業現場に赴き、その作業を終えて自宅に帰る途中に本件事故を起こしたことが認められ、右認定に反する証人斉藤光男の証言部分被告会社代表者佐藤正義本人尋問の結果中の供述部分は前掲証拠に照らして採用できない。また公証人作成部分につき成立に争いなく、竹本作成名義部分につき証人竹本聡の証言により成立の認められる乙第一号証によれば、竹本が本件事故当日は作業現場に行つていないのに同社課長に現場に赴いた旨述べた書面を提出し、右書面は公証人の認証を受けていることが認められるが、右は竹本の前記証言と同様前掲証拠に照らして採用できない。

従つて、本件事故は竹本が被告会社の業務を終えて、その帰途起こしたものというべきであるのでさらに仔細に検討すると、前掲証拠によれば竹本は本件加害車両を本件事故の一カ月程以前に購入し、被告会社の寮に本件加害車を駐車させていたこと、然し乍ら被告会社においては事務と設計に従事する従業員のみが許可を受けて、いわゆるマイカーの通勤をしていたが、竹本ら工事関係に従事する従業員はマイカーを使用して通勤することは禁じられていたこと、被告会社の従業員が作業現場に赴く場合は、被告会社所有の車両を使用することとなつており、右車両に工事関係に必要な工具等が搭載されていたこと、竹本を含み本件事故以前に被告会社の工事関係に従事する従業員がマイカーで作業現場に赴いたことはなかつたこと、竹本は本件事故当日被告会社に無断でマイカーを使用して本件作業現場に赴いたこと(但し工具等の使用関係は明らかでない)がそれぞれ認められる。

如上の事実関係の下においては竹本の本件事故は客観的外形的に見て被告会社の業務の執行についての事故ということは出来ず、また被告会社が本件加害車両に運行支配も運行利益も有しているとはいえないものといわざるを得ない。

よつて原告の本訴請求は理由がないから失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

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